米国経済において、非製造業セクターの役割はますます重要となってきています。特にISM非製造業景気指数は、サービス業をはじめとする幅広い非製造業セクターの経済状況を反映しており、米国の経済規模としては約80%以上を占めます。
金融市場においても世界中から注目度の高い指標です。本記事では、現環境からISM非製造業景気指数の構成データから速報値を予測し、それに基づいた取引戦略について記載します。
ISM非製造業景気指数とは
ISM非製造業景気指数は、米国のサービス業や小売、建設、ヘルスケア、金融、教育など、製造業以外のセクターにおける経済活動を示す指標です。月次で発表され、50を上回ると拡大、50を下回ると縮小を意味します。
これに対し、ISM製造業景気指数は、製造業に特化して経済活動を測定します。両者は似た構造を持ちながらも、対象となる産業分野が異なるため、米国経済全体を把握する際に互いに補完的な役割を果たします。
米国経済における非製造業の重要性の増加
1990年代から2000年代にかけて、米国経済は製造業から非製造業へのシフトが加速しました。
これは、技術の進歩やグローバル化による生産拠点の海外移転などが影響しており、現在では非製造業がGDPの約80%を占めるようになっています。このセクターには、テクノロジー、金融、ヘルスケアといった、製造業と異なる成長エンジンが存在します。
非製造業と金利の影響は金利感度の低さにある
- 設備投資の必要性が低い:
- サービス業は一般的に、製造業ほど大規模な設備投資を必要としません。
- これにより、金利の変動が事業コストに与える影響が比較的小さくなります。
- 人的資本への依存:
- サービス業は多くの場合、人的資源に大きく依存しています。
- 人件費は金利の直接的な影響を受けにくい費用項目です。
- 消費者主導の需要:
- サービス業の多くは、消費者の直接的な需要に応じています。
- 消費者の需要は、短期的な金利変動よりも、雇用状況や所得水準などの要因に影響されやすいです。
これらの特性により、サービス業は高金利環境下でも比較的安定した成長を維持できる傾向があります。
実際、最近の高金利局面においても、米国経済は予想以上の強さを示しています。これは大部分がサービスセクターの耐性によるものと考えられています。
FRBの金融政策への影響を分析する
非製造業セクターの拡大は、連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策にも影響を与えています。
- 伝統的な政策ツールの効果低下
- 前述の通り、金利操作による経済コントロールが以前ほど効果的でなくなっています。
- サービス業の金利感応度の低さが、政策効果の波及を遅らせる要因となっています。
- インフレ動向の変化
- サービス価格は商品価格よりも安定する傾向があり、インフレ率の変動を緩和する効果はあります。
- これにより、FRBのインフレ目標達成が複雑化しています。
- 労働市場への影響
- サービス業は労働集約的な性質を持つため、失業率低下に大きく貢献しています。
- しかし、賃金上昇圧力が強まりにくい傾向もあり、FRBのフィリップス曲線(失業率とインフレ率の関係)に基づく政策判断を難しくしています。
- 新たな政策アプローチの必要性
- FRBは、従来の金利政策だけでなく、より広範な政策ツールを検討する必要性に迫られています。
- 例えば、フォワードガイダンス(将来の政策方針の明確な提示)や量的緩和などの非伝統的な政策手段の重要性が増しています。
これらの要因により、FRBの政策決定プロセスはより複雑化し、市場参加者にとっても政策の予測と解釈がチャレンジングなものとなっています。
以下は2024年9月5日のISM非製造業景気指数のドル円1分足です。発表から最大で1円幅以上の上昇を見せており、その影響度の高さが伺えます。
ISM非製造業景気指数の予測に役立つデータ
ISM非製造業景気指数は、いくつかの重要な構成要素によって成り立っています。これらの要素を理解し、関連する経済データを予測することで、ISM指数の動向を事前に予測することが可能になります。以下に、ISM非製造業景気指数の予測に役立つ主要なデータを紹介します。
こちらの画像は、これから説明する前回までのISM非製造業の構成データを公式サイトで日本語訳したものです。
- 新規受注指数
新規受注指数は、非製造業セクターにおける今後の業績を示す重要な指標です。新たに受注されたサービスや商品が増加すれば、非製造業全体の業績も向上することが予想され、ISM非製造業景気指数の上昇を示唆します。新規受注の増減は、企業の需要動向や消費者の購買意欲を反映するため、特に注視すべきデータです。
こちらは0.6ポイントの増加とポジティブな内容です。前回は5.1ポイント上昇しており、予想値より大きな結果となっていました。これは予想値の上振れ幅としては少ない可能性はありますが、強い数値であることは確かです。
- ビジネス活動指数
ビジネス活動指数は、企業の生産活動やサービス提供の量を測定する指標で、ISM非製造業景気指数の重要な構成要素の一つです。ビジネス活動の拡大は、非製造業セクター全体の経済成長を示し、逆に縮小すれば景気後退の兆候となります。この指数の動向を把握することで、ISM非製造業景気指数の変動を予測することが可能です。
こちらはマイナス1.2と縮小しています。本内訳は新規受注に並ぶ重要さです。ISM非製造業の減少を感じさせますが、数値のみを考慮すると十分高いです。平均値として夏よりやや下落傾向なのは感じさせます。
- サプライチェーンの状況
非製造業にもサプライチェーンの影響が及びます。物流や運輸業の状況、原材料の調達コスト、供給の遅延などは、サービス提供に影響を与える要因です。特に、港湾混雑やサプライチェーンの混乱が発生すると、非製造業セクター全体にネガティブな影響を与え、ISM非製造業景気指数の低下につながる可能性があります。
供給はプラス2.0ポイントと上昇しています。物流の雇用もJOLTS求人の結果やADP雇用統計の内訳からも出ています。
- 消費者物価指数(CPI)
消費者物価指数(CPI)は、サービス価格の変動を含むインフレ率を測定する指標です。CPIの上昇は、非製造業セクターの価格上昇圧力を示し、企業がコストを転嫁している可能性を反映します。CPIが高騰している場合、非製造業セクターの収益性に影響を与え、ISM非製造業景気指数に変動を与える要因となるでしょう。
CPIのサービスにおける全体構成
- 食品: 13.5%
- エネルギー: 8.8%
- コア項目(食品とエネルギーを除く): 77.7%
サービスは8つの項目に分類され、構成比率約56.5%(CPIの半分以上)
食品項目の減少、サービスで重要比率の外食の減少が見られます。
しかしながらコア項目は6月0.1→7月0.2→8月0.3と大きくなっています。全体としてはコアの物価高からもISM非製造業が強いことが伺えます。
- 製造業指数
製造業セクターと非製造業セクターは互いに連動していることが多いため、製造業指数(ISM PMI)の動向を確認することも、ISM非製造業景気指数の予測に役立ちます。
特に、製造業の低迷は輸送業や物流業、関連サービス業に影響を及ぼし、非製造業全体の景気を悪化させることがあります。
こちらはやや下振れです。
- 小売売上高
小売業は非製造業の一部として、ISM非製造業景気指数に直接的な影響を与える要因です。
特に、サービス消費が増加すれば、非製造業全体の景況感が改善し、指数の上昇を後押しすることが期待されます。逆に、小売売上高が落ち込む場合、非製造業指数の低下を予測することができるでしょう。
小売売上高は、特に非耐久財部門、広くサービス業にも強い影響を与えます。
小売売上高に関しても、前々月が強かったにも関わらず、前月比の結果はプラスです。高かったコアが更に高くなっていることがわかります。ポジティブな上材料です。
- 雇用統計
雇用統計は、労働集約型の非製造業セクターにとって非常に重要な指標です。雇用者数の増加や失業率の低下は、非製造業の業績改善を示す兆候となり、ISM非製造業景気指数の上昇を示唆するものとなります。
非製造業はサービス提供や労働力に依存しているため、雇用の増減は業績に直結します。特に、サービス業や小売、輸送業などは消費者との接点が多いため、雇用が増えれば経済活動も活発化し、指数の上昇が予想されます。
反対に、雇用が減少した場合、非製造業セクターの景況感が悪化し、ISM非製造業景気指数の低下が見込まれます。
雇用統計に関しては後日の発表となるので、別に分析記事を出す予定です。
- ADP雇用統計
ADP雇用統計は、民間部門の雇用状況を示すデータであり、非製造業景気指数を予測する上で非常に重要な先行指標です。
特に、サービス業や小売業などの雇用動向を示すため、非製造業の業績を反映しやすいです。ADP雇用統計が予想を上回る場合、非製造業セクターの成長を示唆し、ISM非製造業景気指数の上昇が期待されます。
ADP雇用統計の内訳ですが、製造業の伸び悩みに反してサービス関連の増加がわかります。非製造業の上昇が期待される材料です。
- JOLTS求人
JOLTS求人統計は、求人件数や労働市場の需給バランスを示すデータです。
非製造業では、求人件数の増加が業績の改善を示すため、JOLTSのデータもISM非製造業景気指数の予測に役立ちます。
特に、求人件数が増加している場合、企業が成長を予想していると解釈され、非製造業の活動が拡大していることを示唆します。
セクター別には下がっている項目が多いです。
求人を引き上げたのは、原油価格下落に伴う物流関係や根強いサービス関連と政府系です。大きな変化はありませんが、建設が伸びているのはポジティブです。
・ 景況感のデータ
景況感は、各地域や産業における経済活動の状況を示す指標であり、ISM非製造業景気指数にも影響を及ぼします。2024/10/3までの景況感についてはこちらより参照してください。
ISM非製造業景気指数の構成データから速報値を算出
ISM非製造業景気指数においての取引戦略を考える
ISM非製造業景気指数の予測に基づいた取引戦略として、以下のポイントが挙げられます。
- ISM非製造業景気指数の発表前にポジションを調整
発表前に各種経済指標を分析し、指数が予想を上回る場合は米ドルを買い、下回る場合は米ドルを売るポジションを取る戦略が有効です。
今回は上振れが意識されるようなコンセンサスが強いので、セル・ザ・ファクトの事実売りは考えなければいけません。エントリーポジションに余裕を持つ必要がありそうです。 - 発表後の反応を見てエントリー
ISM非製造業景気指数の発表後、市場は短期的な変動もさる事ながら、長期的にも相場を形成する可能性があります。
米国経済の約80%以上を占めるからです。発表直後の相場の反応を見極め、トレンドに従ってポジションを取るのも有効な戦略です。 - リスク管理の徹底
予測が外れた場合に備えて、損失を最小限に抑えるためのリスク管理が重要です。ストップロスを適切に設定し、リスクを管理することで、損失を限定しつつ利益を狙うことができます。
まとめ
いかがだったでしょうか。
ISM非製造業景気指数は、米国経済の非製造業セクターの動向を測定する重要な指標であり、FX市場においても大きな影響を持ちます。
この記事では、ISM非製造業景気指数の構成データを分析し、その速報値を予測する手法と、それを基にした取引戦略を解説しました。
新規受注指数やビジネス活動指数、サプライチェーンの状況、雇用統計など、複数の経済指標を組み合わせて予測を立てることで、より精度の高いトレードが可能になります。
これらのデータは、非製造業セクターの健康状態を反映し、FX市場における米ドルの動向にも直接影響を与えます。
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皆様の利益を願っております。
DAKURA