雇用統計は投資・トレード判断において極めて重要な指標です。
政策面では、中央銀行が金融政策を決定する際の主要な判断材料となります。良好な雇用統計は経済の過熱を示唆し、金利引き上げの根拠となる一方、悪化は金融緩和策の必要性を示します。また、政府の財政政策にも影響を与え、雇用対策や経済刺激策の立案に直結します。
つまり経済の現状と将来の方向性を示す重要なシグナルです。
本記事では、雇用統計の構成データから予想を算出し、トレードにおける重要な判断材料を記載します。
2. 雇用統計とは
雇用統計は、米国労働省が毎月第一金曜日に発表する重要な経済指標です。農業部門を除いた産業における雇用者数(非農業部門雇用者数:NFP)の変動を示しており、米国経済の現状やトレンドを把握するための指標として広く注目されています。
この統計には、雇用者数の変化に加えて、失業率や平均時給、労働参加率といった複数の要素が含まれています。
雇用統計は経済成長や景気の拡大・縮小を示す主要な指標として、米国のFRB(連邦準備制度理事会)が最も注目しており、金融市場全般に強い影響を与えます。
米国連邦準備法では、FRBの目的を「雇用の最大化」と「物価の安定」の達成にあると定めているわ
基本的には、非農業部門雇用者数が予想以上に増加すれば、経済が成長していると見なされ、米ドルが上昇する要因となります。逆に減少したり予想を下回った場合、経済の停滞や縮小の懸念から米ドルが下落する可能性が高まります。
また、一般的に重要視されるのは非農業部門雇用者数ですが、米国を取り巻く経済状況や投資心理によっては、景気後退に直結しやすい「失業率」や物価上昇率に影響する「平均時給」がより重視されることもあります。
各項目のデータを包括的に分析することで、雇用統計の結果から予想されるマーケットの動きを予測し、取引の判断材料とすることが大事です。
世界中で報道される雇用統計の影響度は計り知れないね。速報後の値動きばかりじゃなくて長期的な視野が必要かも。
3. 前回までの雇用統計と予想に役立つデータ
雇用統計の結果を正確に予測するためには、いくつかの重要な経済指標やデータを分析する必要があります。これらの指標は、雇用統計の構成要素を理解し、次回の発表に対する見通しを立てるための基礎となります。
3.1 前回までのデータと今回の予想値
過去の雇用統計データは、次回の結果を予測する上で欠かせない情報源です。過去の傾向やトレンドを掴むことで、今後の雇用情勢を推測することができます。特に注目すべき指標として、以下のものがあります。
非農業部門雇用者数(NFP)
米国経済活動を広く反映する主要な指標です。農業部門を除いた全ての産業における雇用者数の増減を示しています。
重要性: 経済の成長と雇用創出力を直接的に示す指標
関連性: 他の2つの指標に影響を与える基礎的な数値
前回は14.2万人の増加で、前月の改定値である8.9万人(8月は11.4万人から8.9万人に下方修正)から増加なるも、予想値より下振れました。結果が予想値を下振れたのはこれで2ヶ月連続です。
今回は予想14.8万人と前回結果よりは良いですが、予想値としては今年最弱となります。結果があまり高くないことを感じさせるような材料です。
失業率
失業率は、労働力人口に対する失業者の割合を示す指標であり、U-3失業率が一般的に使用されます。この数値は、求職している人の中で実際に失業している人の割合を示しています。失業率が低下すると、労働市場が改善しているとされ、経済の回復や成長を予測する要素となります。
重要性: 労働市場の全体的な健全性と需給バランスを反映
関連性: NFPの変動に応じて変化し、平均時給に影響を与える
8月に発表された4.3%が米国経済のこれからの景気後退を示唆するのではないかと懸念されましたが、4.2%と横ばいの予想値です。
平均時給
平均時給は、労働者が受け取る賃金の平均額を示します。賃金の上昇は、消費者の購買力を増大させ、消費拡大につながります。これにより経済全体が成長し、インフレの加速が予測されることもあります。賃金の増加は、中央銀行が金融政策を見直す際の判断材料としても重要視されます。
重要性: インフレ圧力と消費者の購買力を示す指標
関連性: 労働市場の逼迫度(失業率)に影響を受け、将来的なNFPに影響を与える可能性がある
平均時給は前回上昇しましたが、インフレより雇用が重視される現在のマーケットの反応では、この項目の上下はさほど意識されない可能性が高いです。速報後は他の指標を注目すべきでしょう。
3.2 雇用統計の予想に役立つデータ
ADP雇用統計
ADP雇用統計は、雇用者数の変動を示す民間企業のデータを基にした指標です。これは雇用統計の発表前に公表されるため、NFPの速報値を予測する上で有用です。
小規模ビジネスの減少はありますが、大企業になるにつれて雇用がポジティブです。
大企業の雇用増は影響度が大きいです。また、項目別にも製造業以外の広い分野で拡大が見られます。労働人口比で高い非製造業が示すサービスが強いのは、ポジティブです。注意しなければならないのは、今回の数値だけを知っている人は歴史的にはそれほど高くないということです。
JOLTS求人件数
米国労働省が発表するJOLTS(Job Openings and Labor Turnover Survey)は、雇用状況の先行指標として重要視されています。特に求人件数は、将来の雇用状況を示すデータとして活用されます。
建築の求人が強いのはJOLTS求人からよくわかります。雇用増は見た目にはマイナス6.2%ですが、離職率がセクター比で低いです。良い給料、給料アップがあることも想像できます。建築は裾野が非常に広いのでポジティブだと言えます。先月からの住宅関連の経済指標が強かった結果がよく現れていると思います。金利の引き下げは高かった住宅ローン金利の低下が見込まれ、先行して建設業の需要と労働者増が強いのでしょう。
新規失業保険申請件数
毎週発表される失業保険申請件数は、雇用情勢をリアルタイムで把握するための指標です。このデータは短期的な変動を捉えることができ、雇用統計の結果を予測する際の参考になります。
雇用統計の算出期間内の失業保険申請件数は、調査対象となるその月の12日を含む週の土曜日までです。期間内における前月比の増減としてはほぼ横ばいです。注意しなければならないのは、算出期間に拘りすぎず該当月の全体も包括的に比較、判断しなければならないです。これは算出期間が劇的に良かった当該月の雇用統計が悪かったなどの経験則によります。季節調整も入りますので。それらを踏まえると9月はやや改善しています。
失業保険継続申請件数
継続的に失業保険を申請している人数を示すデータで、長期的な失業者の動向を把握するために使用されます。このデータが減少傾向にある場合、労働市場の改善が期待されます。この数値が高い場合、労働市場における雇用の伸びが停滞している可能性を示唆します。
2024年10月03日 | 1,826K |
2024年09月26日 | 1,834K |
2024年09月19日 | 1,829K |
2024年09月12日 | 1,850K |
2024年09月05日 | 1,838K |
2024年08月29日 | 1,868K |
2024年08月22日 | 1,863K |
2024年08月15日 | 1,864K |
2024年08月08日 | 1,875K |
2024年08月01日 | 1,877K |
失業保険継続申請件数は8月に比べて急速に改善しています。10月最新でもポジティブなのは今後の参考になります。JOLTS求人の多さも頷けます。労働市場にポジティブです。
ISM製造業・非製造業の雇用者数
ISM(Institute for Supply Management)製造業指数および非製造業指数は、製造業およびサービス業の雇用状況を反映する指標です。これらのデータは、産業別の雇用動向を分析する際に有効です。
2024年10月01日 (9月) | 43.9 |
2024年09月03日 (8月) | 46.0 |
2024年08月01日 (7月) | 43.4 |
2024年07月01日 (6月) | 49.3 |
2024年10月03日 (9月) | 48.1 |
2024年09月05日 (8月) | 50.2 |
2024年08月05日 (7月) | 51.1 |
2024年07月03日 (6月) | 46.1 |
ISM製造業・非製造業の雇用者数はネガティブです。ISM非製造業が54.9とかなり強く、新規受注も強かったのですが、非製造業において雇用が鈍化したことが悪化材料です。
労働参加率
労働参加率は、労働力人口を生産年齢人口で割った値です。労働市場に積極的に参加している人の割合を示すこの数値が高ければ、経済活動が活発であることを示唆します。逆に、労働参加率が低下した場合、労働力不足が懸念され、将来の経済成長に悪影響を与える可能性があります。
労働参加率に明確な増減は見られず、今回は影響が低いです。
消費者信頼感指数
消費者信頼感指数(Consumer Confidence Index)は、消費者の経済に対する信頼度を測る指標です。消費者信頼感が高まると、経済活動が活発化し、雇用増加の予測が立てられます。
2024年09月24日 (9月) | 98.7 |
2024年08月27日 (8月) | 103.3 |
2024年07月30日 (7月) | 100.3 |
回復していた消費者マインドは悪化しています。しかし地域別には回復しているところが多いです。地域別は⏬より参照です。
経済的な理由でパートタイム | 4,220 | 4,566 | 4,830 |
消費者マインドの悪化には、貯蓄率や物価高などさまざまな要因がありますが、経済的な理由のパートタイムは増えています。ダブルワークは雇用統計において、一人が2つの仕事を行うと単純に2としてカウントされるのでそういった意味では雇用の数値上の増加はあり得ます。
労働生産性と労働コスト
労働生産性は労働者一人あたりの生産量で、生産性の向上は賃金上昇や雇用拡大に影響します。労働コストの減少は、賃金や福利厚生など、労働者の総コストの変化を示し、設備投資やインフレの低下を示してくれます。
労働生産性はピークアウトし、2023年のような雇用の拡大が緩やかなことを教えてくれます。また労働コストは下がり、平均時給もこれまでほど強くなくピークアウトを示すことを示唆します。
人員削減予定数
米国の雇用に関して、今後の人員削減について調査を行っている米企業のデータです。
米国を拠点とする雇用主は、9月に 72000 件ほど人員削減を発表し、これは1ヶ月前の発表から約4%減少しました。市場にとっては雇用の悪化を心配させないポジティブさです。なお、同社によると昨年の同月比からは約53%上昇しており、これもまた昨年から春までのような大きな雇用の改善を難しくさせます。
う〜ん。雇用に関しては少なくとも劇的な改善とはならないかもなぁ
雇用統計が市場に与える影響
ここで雇用統計の発表が、市場やその他の金融市場に即時的かつ強力な影響を及ぼすことで投資家、トレーダーたちはどう立ち回るべきかを考えましょう。
雇用統計はFOMCでの政策金利の決定に大きく左右します。金利は債券へと広く影響しますので、短期も長期もトレーダーは特に注目しなければなりません。
政策金利への影響
雇用統計の結果は、米国連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策に直接的な影響を与えます。雇用が順調に拡大し、インフレが進行していると判断されれば、FRBは政策金利を引き上げる可能性が高まります。一方で、雇用市場が停滞し、経済の減速が懸念される場合は、利下げや量的緩和策が実施される可能性もあります。
債券市場への影響
雇用統計は、米国債券市場にも大きな影響を及ぼします。特に、長期金利は雇用統計の結果によって大きく動きます。例えば、雇用が予想以上に増加した場合、インフレ懸念が高まり、金利が上昇する傾向があります。逆に、予想を下回る結果であれば、金利は低下することが多いです。
債券市場と長期金利、ドル円には密接な関係があり、それらを紐解くことで成績が向上する可能性は高まります。以下の記事を参考にしてください。
雇用統計の予測と取引戦略
米国政府による調整
雇用統計のデータは、米国政府によって様々な要因を考慮した上で調整されます。これは、季節変動や経済構造の変化を反映するために行われるもので、時には発表後に修正されることもあります。過去のデータがどれだけ修正されたかを把握することは、速報値の信頼性を判断するために重要です。
以下は雇用者数が2009年以来の大幅下方修正が続いていることのデータです。(BLS米労働統計局データからのブルームバーグより参照)
9月の発表では、8月に2.5万人の下方修正、7月と6月の過去2カ月分は合わせて8.6万人の下方修正がされました。大統領選挙前ということもあり、隠したいデータがあると思われても仕方ありません。前回の雇用統計の結果を受けても、エコノミストからは9月分も下方修正されるだろうとういう判断が多かったです。
調整を考慮した取引戦略
調整を考慮した上での取引戦略としては、初期の速報値に飛びつかず、修正が入るまでの市場の反応を観察する手法が有効です。
特に、発表直後の急激な値動きに対して、慎重な姿勢を保つことが重要です。雇用統計の結果が発表されると、通常は瞬時に市場が反応しますが、この動きはしばしば感情的な反応や短期的な取引によるものです。
市場が一時的に過熱した場合、発表から時間が経つにつれて冷静な取引が戻り、実際の経済データを基にした合理的な相場形成が行われることが多いです。
そのため、雇用統計発表後の短期間における市場の動きを観察し、急激な上昇や下降に対して安易に取引を行わず、修正値や市場の落ち着きを待ってからエントリーすることも有効な戦略となります。スプレッドの広がりに注意しながら、欲しかったエントリーポジションを取得するチャンスを探ることもできます。
こうした「逆張り戦略」は、過剰反応によって一時的に相場が振れた後の調整局面で利益を狙うことができる手法です。リスク管理にもつながります。
調整を考慮した追加戦略
雇用統計発表後に行われるデータの修正は、取引におけるリスクとチャンスの両方を提供します。この修正データが発表された後、市場は再度動く可能性が高いため、このタイミングを捉えることも有効な戦略です。下方修正の回数が顕著であれば、ショートポジションを取りたい場合の調整戦略も考えられます。
いずれにせよ大きなレバレッジには注意しなければなりませんが、ボラティリティの変化はスキャルピングの上手いトレーダーにはチャンスとなることがあります。
まとめ
いかがだったでしょうか。
雇用はこれだけの構成データではなく、マクロ経済からさまざまな不確定要素が多いです。
雇用統計は、FXトレードにおいて最も重要な経済指標の一つであり、その結果は為替市場だけでなく、株式市場、債券市場、コモディティ市場にも広範な影響を与えます。
雇用統計を効果的に活用するためには、事前の準備と市場の反応を冷静に観察することが求められます。
また、トレード戦略としては、短期的なトレードだけでなく、長期的な視点でのポジション取りも有効です。さらに、雇用統計の発表時には市場が不安定になるため、リスク管理の重要性を再確認し、感情に左右されずに計画的なトレードを行うことが大切です。
最終的に、雇用統計を理解し、その影響を正確に予測することができれば、投資、トレードでの成功確率を高めることができます。成長するためには、過去のデータを学び、分析を深め、常に冷静で戦略的なアプローチを心がけることが重要です。
皆さんの利益を願っております。
DAKURA