ADP雇用統計の発表は、米国の労働市場と経済全体を測る重要な指標であり、影響力が非常に大きいものです。正確な予測を行うことで、市場の動向を事前に捉え、適切な取引戦略を構築することが可能です。
本記事では、構成データや先行指標を活用し、ADP雇用統計をどのように予測して取引に活かせるかを解説します。データに基づいた予測で、取引の成功率を高めましょう。
1. ADP雇用統計がFX取引において重要視される理由
ADP雇用統計は、米国の民間部門における雇用状況を月次で報告する重要な経済指標です。民間企業の給与計算データを元に作成され、労働市場の動向を示す先行指標として知られています。
雇用統計の先行指数としても注目される他、それを補完するという意味でも重要視されています。幅広いマーケットに強く影響するため、多くのトレーダーがこの統計に注目します。
ADP雇用統計は、通常、毎月第1水曜日に発表されます。特に政府が発表する雇用統計の「NFP: 非農業部門雇用者数」よりも数日前に発表されるため、NFPの結果を予測するための材料として活用されています。
- 雇用統計との違い
雇用統計(NFP)は、政府によって発表されるもので、農業以外のすべての雇用を対象としています。これに対して、ADP雇用統計は民間部門に焦点を当て、政府雇用や農業関連のデータは含まれません。
両者ともに労働市場の指標として重要視されますが、NFPは米国経済全体の雇用状況を示す一方、ADPは企業の民間雇用のみに注目する点で異なります。NFPは政治的なコントロールが強いという見方が近年のコンセンサスにあり、注目度が高まっています。
2. ADP雇用統計の予測に役立つデータ
ADP雇用統計を正確に予測するためには、いくつかの先行指標が役立ちます。
これらの指標を複合的に分析することで、ADPの結果をより精緻に予測でき、FX市場での取引戦略に活かすことが可能です。
- ISM製造業・非製造業指数の雇用指数
ISM(米国供給管理協会)が発表する製造業および非製造業の指数は、経済全体の雇用動向を推し量る上で重要な指標です。
特にその中で雇用指数は、企業がどの程度新たな雇用を創出しているか、もしくは従業員の数を減らしているかを反映します。製造業、非製造業それぞれの雇用指数を確認することで、ADP雇用統計の動向を予測します。
ISM製造業雇用指数 | ||
結果 | 予想 | |
2024年10月01日 (9月) | 43.9 | 47 |
2024年09月03日 (8月) | 46 | |
2024年08月01日 (7月) | 43.4 | 49 |
2024年07月01日 (6月) | 49.3 | 50 |
2024年06月03日 (5月) | 51.1 | 48.5 |
2024年05月01日 (4月) | 48.6 | 48.2 |
2024年04月01日 (3月) | 47.4 | 47.5 |
2024年03月02日 (2月) | 45.9 |
ISM非製造業雇用指数 | ||
結果 | 予想 | |
2024年09月05日 (8月) | 50.2 | 50.5 |
2024年08月05日 (7月) | 51.1 | 46.4 |
2024年07月03日 (6月) | 46.1 | 49 |
2024年06月05日 (5月) | 47.1 | 47.2 |
2024年05月03日 (4月) | 45.9 | 49 |
2024年04月03日 (3月) | 48.5 | 49 |
2024年03月06日 (2月) | 48 | 51.4 |
ISMは、雇用が減少していることがわかります。特に製造業で顕著です。
- 新規失業保険申請件数
新規失業保険申請件数は、労働市場の状態を示す直接的な指標の一つです。
このデータは毎週発表され、米国で新たに失業保険を申請した人数を反映します。申請者数が増加している場合、雇用市場が悪化している兆候であり、ADP雇用統計が悪い結果を示す可能性があります。
8月の発表に比べると、9月は若干ですが低いことがわかります。これは失業率の改善と雇用増を示す材料です。
- 失業保険継続申請件数
失業保険継続申請件数は、失業保険を継続的に受け取っている人数を示します。
この数値が高い場合、労働市場における雇用の伸びが停滞している可能性を示唆し、ADP雇用統計の予測に影響を与えるでしょう。
2024年09月26日 | 1,834K |
2024年09月19日 | 1,829K |
2024年09月12日 | 1,850K |
2024年09月05日 | 1,838K |
2024年08月29日 | 1,868K |
2024年08月22日 | 1,863K |
2024年08月15日 | 1,864K |
2024年08月08日 | 1,875K |
2024年08月01日 | 1,877K |
JOLTSの予測でも使いましたが、継続して失業保険を申請している数は減っていることがわかります。これは雇用の改善がある材料です。
- JOLTS求人件数
JOLTS(Job Openings and Labor Turnover Survey)は、求人件数や労働者の離職・転職率を示す指標です。
このデータが高ければ、労働市場において求人が多く、雇用が増加する兆しと捉えられます。ADP雇用統計が好調な結果になる場合、この指標も事前に上昇する傾向があります。
JOLTS求人の内訳です。求人増の発表はありましたが、雇用は若干減少していることが伺えます。さらに離職率が増加しており、失業率の悪化が心配されます。求人増に見合う雇用の強さはあまり感じられません。
- 雇用コスト指数
雇用コスト指数(ECI)は、労働者への賃金や福利厚生費の上昇を示す指標です。
雇用コストの増加は、企業が労働力を確保するために競争していることを反映しており、労働市場が引き締まっていることを示唆します。これにより、ADP雇用統計の結果にもプラスの影響を与える可能性があります。
2024年07月31日 (Q2) | 0.9% |
2024年04月30日 (Q1) | 1.2% |
2024年01月31日 (Q4) | 0.9% |
2023年10月31日 (Q3) | 1.1% |
2023年07月28日 (Q2) | 1.0% |
2023年04月28日 (Q1) | 1.2% |
続いての労働コスト指数はわずかに低下しています。インフレ鈍化の材料でもあります。雇用統計の結果には低い材料です。
- 景況感のデータ
景況感は、各地域や産業における経済活動の状況を示す指標であり、労働市場にも影響を及ぼします。
- NY連銀製造業景気指数
ニューヨーク連銀が発表する景況感指数は、米国北東部の製造業における雇用の増減を示します。これは製造業全般の雇用動向を掴むために役立ちます。
2024年09月 | 11.5 |
2024年08月 | -4.7 |
2024年07月 | -6.6 |
2024年06月 | -6.0 |
2024年05月 | -15.6 |
- フィラデルフィア連銀製造業景気指数
フィラデルフィア連銀による製造業指数も、雇用市場の状態を反映します。特に製造業が活発であれば、雇用が増加することが期待されます。
2024年09月 | 1.7 |
2024年08月 | -7.0 |
2024年07月 | 13.9 |
2024年06月 | 1.3 |
2024年05月 | 4.5 |
- シカゴ購買部協会景気指数
シカゴ地域の製造業・流通業の景気動向を示すこの指数は、全米の景気指標と同様に、雇用の予測にも使用されます。
2024年09月 | 46.6 |
2024年08月 | 46.1 |
2024年07月 | 45.3 |
2024年06月 | 47.4 |
2024年05月 | 35.4 |
- ダラス連銀製造業活動指数
南部の製造業活動を測定するこの指数は、地域の労働市場における雇用状況を示します。
2024年09月30日 (9月) | -9.0 |
2024年08月26日 (8月) | -9.7 |
2024年07月29日 (7月) | -17.5 |
2024年06月24日 (6月) | -15.1 |
2024年05月28日 (5月) | -19.4 |
- コンファレンス・ボード消費者信頼感指数
消費者信頼感指数は、消費者が経済に対してどの程度の信頼を持っているかを測るもので、景気全体を反映します。消費者の自信が高ければ、企業が拡大を図り、雇用を増加させる可能性が高くなります。このため、ADP雇用統計に対してもポジティブな影響を与えると考えられます。
2024年09月 | 98.7 |
2024年08月 | 103.3 |
2024年07月 | 100.3 |
2024年06月 | 100.4 |
2024年05月 | 102.0 |
景況感は、多くの都市で回復しています。しかし米5000世帯調査のコンファレンス・ボード消費者信頼感指数は急落しました。
消費者マインドは地域のバラツキが強く出ており、今回の調査ではプラスマイナスどちらの材料とも言い難いです。
3. ADP雇用統計がFXに与える影響
ADP雇用統計は、米国の経済全体の労働市場の強さを示すため、為替市場に大きな影響を与えます。
特に、ADPの発表が市場予想を上回った場合、米ドルが買われやすくなり、逆に予想を下回ると米ドルが売られる傾向があります。これは、強い雇用データがFRBの金融政策に影響を与えるからです。ADPの結果次第では、FRBが金利を引き上げる可能性が高まり、ドル高が進行することもあります。
FXトレーダーにとっては、ADP雇用統計の結果を基に短期的な取引機会を探ることができ、特にスキャルピングやデイトレードにおいてその結果が重要な要素となります。
前回2024/9/5のADPは約70銭近くの円高となりました。非常に警戒が強いことが伺えます。
4. 予測と取引戦略
ADP雇用統計を予測し、その結果をFX取引に反映させるための戦略として、いくつかのアプローチがあります。
4-1. 事前のポジショニング
ADP雇用統計の発表前に、先行指標を基に市場予測を行い、ポジションを取ることができます。
例えば、ISM製造業指数や新規失業保険申請件数、その他上記の構成データが好調な場合、ADP雇用統計も良好結果となる可能性が高くなります。
逆に不調が見られれば、ADP雇用統計でも雇用悪化が予測されます。
強ければ、米ドルの上昇を見越してドル買いポジションを取ることが戦略となります。
一方、これらの指標が悪化している場合、ADPも悪化が予想され、ドル売りのポジションが有効となるでしょう。
こうしたデータを活用し、発表前にポジションを取ることでリスクヘッジが可能です。
4-2. 発表直後の反応取引
ADP雇用統計の発表直後、為替市場は急激な変動を見せることがあります。このとき、市場予測との乖離が大きい場合は、トレーダーは迅速に反応し、利益を上げるチャンスが生じます。例えば、ADPの結果が市場予想を大幅に上回ると、米ドルが急騰し、ドル買いのポジションが有利に働く可能性が高まります。逆に、予想を大幅に下回った場合は、米ドルが売られ、ドル売りのポジションが効果的となるでしょう。
しかしながら、相場の急変時にはスプレッドが拡大します。継続して相場を追うべきかは迅速な判断とリスク管理が求められ、これも事前の準備が必要です。
指標の発表前にあらかじめ複数のシナリオを想定し、それぞれの結果に対してどう動くかを準備しておくことが重要です。
4-3. 複合的な指標の活用
ADP雇用統計単体ではなく、他の経済指標と組み合わせて取引戦略を立てることも有効です。例えば、ADPが良好な結果を示したとしても、翌日に発表される雇用統計(NFP)が予想を大きく下回る可能性があります。このため、ADP以外の指標にも注目し、全体的な労働市場の動向を把握することが重要です。
5. ADP雇用統計の構成データから速報値を算出
構成データはADP雇用統計の結果を予測するための非常に有効なデータですが、雇用は不確定要素が多く予測が非常に困難ではあります。
今回も算出データ元に上下の材料が入り混じっておりますが、私は今回の24/10/2の本指標は大きな回復はしていないと予想しています。前回の結果の数値とあまり変わらないといったところでしょうか。
ISMはあまり大きな改善を見せず、JOLTSも内訳としてはほぼ横ばいです。米国全体の景気感も、上下を判断する材料には乏しいです。ISM非製造業の発表も控え、材料として週末の雇用統計に雇用指数に臨むことが大事だと思います。
6. まとめ
いかがだったでしょうか。
ADP雇用統計は、米国の労働市場の動向を把握するための重要な先行指標であり、FX取引においても大きな影響を及ぼします。
ISM雇用指数、失業保険申請件数、新規求人件数などなど、複数の経済指標を組み合わせて予測を立てることが、取引戦略を成功に導く鍵です。
また、発表前のポジショニングや発表直後の反応取引、さらには複合的な指標を活用することで、為替市場において利益を最大化することを目標にしましょう。
トレーダーは、これらのデータを基に事前にシナリオを構築し、迅速かつ適切に対応することで、リスクを最小限に抑えつつ、取引チャンスを活かしたいです。
皆様の利益を願っております。
DAKURA