経済指標は投資家やトレーダーにとって重要な判断材料となります。その中でも、GDP(国内総生産)は、経済全体の動向を示す代表的な指標であり、株式市場や為替市場への影響は大きいです。また、GDPのデータは速報値、改定値、確報値の3段階に分かれて公表され、特に速報値の影響が大きく、為替市場や株式市場の動向を左右します。本記事では、GDPの構成データや関連する経済指標を基に、今後の相場をどのように予測するかについて解説します。
1. GDPが相場に与える影響とドル円について
【基本情報】ドル円としてはGDPの速報値が市場予想を上回ると、ドル高や株高の材料となる一方、下回る場合はドル安や株安の効果を生み出す可能性があります。国内総生産を示すGDPは単純に国の経済成長を表すためです。
GDPは、対象期間が終了してから発表されるため、過去の経済を表す「遅行指数」とされますが、その心理的な影響力は無視できません。特に速報値が大きな注目を集め、実際の市場動向に影響を与えることが多く、値動きも大きいです。
まずはその理由について解説します。
1-1. 速報値、改定値、確報値の違いと特徴
GDPは前四半期の経済状況を教えてくれます。例えば図のQ1は、1〜3月の四半期、つまり第1四半期を指します。また、上記2024年のデータを見てわかるように、同四半期(Q4、Q1、Q2)の結果は速報値、改定値、確報値と近づくにつれて、徐々に予想値も近づいています。
GDPの速報値は最初に発表されるデータで、主に簡易的なサンプルに基づいて作成されます。そのため、経済全体の動向を素早く把握できるものの、正確さには限界があります。改定値や確報値では、より詳細なデータが反映され、速報値からの修正が入ることがよくあります。修正されることで、該当四半期における経済成長のデータが正確なものになっていきます。
しかしながら確報値ともなればその修正値が市場に織り込まれますし、データとしては3ヶ月前の経済状態を表すので情報として古くなります。
そのため、GDPは速報値に最も注目が集まります。同時刻に発表される経済指標がある場合には、改定値、確報値と進むにつれて他の経済指標を重視した方が良い判断ができます。優先度を把握しましょう。
同時刻発表の経済指標があっても、優先度を事前に知っているのは大きいな!
1-2. GDPは過去の経済を表す遅行指数であるにも関わらず、相場を動かす理由
GDPデータは対象期間が終了してから発表されるため、他の経済指標と比べて「遅行指数」として分類されることは記述しました。「半年先を見ろ」と言われる投資活動ですが、GDPがこれほど価格に影響を及ぼすのには理由があります。
それはGDPが経済の包括的な指標であるため、中長期的な経済分析や政策決定においては依然として重要とされるからです。世界中で報道される国力を測る代表格として、メディアにも大きく取り上げられ、広く一般の人々に景況感の変化を与えます。一般投資家に与える心理的な影響が大きいため、市場を大きく動かす要因となります。
市場はプロの投資家や機関投資家と言われる大口だけで動いているものでなく、一般投資家も動かしています。
経済活動を活発に追うことのない大多数のライトな投資家たちの心理的な影響が、為替や株価に影響を与える要因のひとつとなるので、GDPは遅行指数でありながら注目されます。
1-3. GDPから派生する景気後退やリスクから利益のチャンスを探す
2四半期連続でGDPがマイナス成長を記録する場合、一般的には「テクニカル・リセッション」と呼ばれます。
このテクニカル・リセッションに陥ってしまうと、国力を意識され、国の通貨は下がりやすいです。またそれを見越して、マイナス成長が記録された通貨の2度目のGDP発表時には注目が集まり、時にはそれを織り込んで価格が変動しやすいです。
投機的なポジションにもさらされ、景気後退を印象付けます。
また、スタグフレーション(経済成長が停滞中の物価上昇)のリスクも考慮すべきです。成長が停滞しつつ物価が上昇する状況では、経済が混乱し、政策判断が難しくなることがあります。スタグフレーション直後の国の通貨は急落する傾向にあります。チャンスとしても押さえておきたいポイントです。
では実際の値動きを見てみたいと思います。こちらは2024年に英国がテクニカルリセッションとなった時のポンドドルの値動きです。
乱高下を繰り返してはいますが、緩やかに下落相場です。2月に入ってからは特に英国がテクニカル・リセッションとスタグフレーションへの警戒感が高まりました。通常CPI(消費者物価指数)が高止まりするとインフレや高金利維持への思惑からその国の通貨は上昇しやすいです。しかし、2月はCPIが高止まりを示したのにも関わらず下落しました。テクニカルリセッションとスタグフレーションの警戒です。この時の英国CPIの経済指標は、売り(ショートポジション)が、CPIの結果が上振れにも下振れにも利益のチャンスでした。
このように経済指標には上振れでも下振れでも同方向に相場が向かいやすいチャンス指標が存在します。メンバーシップでは、その少ないチャンスを共有します。
※豆知識:テクニカル・リセッションは、正式な景気後退を意味するものではありません。アメリカでは、全米経済研究所(NBER)が景気後退を判断する機関であり、実質個人所得や雇用統計なども重視されます。
2. GDPを予測するために必要な構成データ
GDPは大きく以下の4つの要素で構成されており、それぞれが経済の成長に寄与します。各データに関しては、経済指標の他には米国経済分析局(BEA)を確認したりしています。
参照先:米国経済分析局(BEA)https://www.bea.gov
2-1. 個人消費支出(影響度:★★★★★)
GDPの最大の構成要素である個人消費支出は、米国経済の約70%を占めています。主に小売売上高や消費者信頼感指数が、このセクターの動向を測る重要な指標です。消費者の購買意欲が高まることで、経済全体が成長し、ドル高につながることが多いです。
2-2. 民間設備投資(影響度:★★★☆☆)
民間設備投資は、企業が新しい設備や機械に投資する金額であり、経済成長の推進力となります。特に耐久財受注やコア資本財受注などのデータが重要です。投資の拡大は経済成長を支え、ドル高の材料となります。
2-3. 政府支出(影響度:★★★☆☆)
政府支出は、GDPに対する重要な要素の一つです。政府がインフラ投資や公共事業を通じて経済に資金を供給することで、短期的な景気刺激策として機能します。
2-4. 純輸出(輸出 – 輸入)(影響度:★☆☆☆☆)
米国の貿易収支は、輸入が輸出を上回っているため、GDPに対して負の影響を与えることが多いです。純輸出がマイナスになることは、米ドルが強くなる要因ともなります。
これらの要素を組み合わせて、GDPの予測を行うことが可能です。純輸出項目は、その項目がマイナス項目としても計上されることがあります。
3. GDPの構成データから先々の経済を予測する
前述の影響度の材料から、GDPの主要構成要素を基に、次のGDP発表を予測します。
個人消費が堅調であればGDPの上振れが期待され、ドル高や株高の材料となります。一方、個人消費が低迷し、企業の設備投資が落ち込む場合、GDPの下振れが予想され、ドル安や株安につながる可能性があります。
また、同時に発表されるGDPの内訳のひとつであるGDPデフレーターは、経済全体の物価水準を示す重要な指標です。政策金利の動向に影響を与える材料となるからです。GDPが予測値通りであった場合などに、将来的な物価水準が上昇すればドル買いや円安へと繋がりかねません。
ただし、市場心理が先行している場合、GDPの結果が予想に反しても、相場が逆に動くことがあります。これを「Buy the rumor,sell the fact(バイ・ザ・ルーモア,セル・ザ・ファクト)」と呼び、噂で買って事実で売れの投資の格言です。思惑で買われた材料が、発表をキッカケに売られることを指します。
これらの詳細な分析や予測の先行公開は、メンバーシップの限定コンテンツとなります。
まとめ
いかがだったでしょうか。
GDPは、経済全体の動向を示す重要な指標であり、特に相場に大きな影響を与えます。
速報値、改定値、確報値の段階的な発表は、徐々に数値が定まり、予想値が正確になります。
速報値の方が、市場に対するインパクトが大きいですが、後になるほどその影響は小さくなります。
GDPの構成要素である個人消費支出、民間設備投資、政府支出、純輸出を分析することで、将来の経済動向を予測し、相場を動かす材料として活用できます。
また、GDPは過去の経済を表す「遅行指数」として知られ、即時的な市場判断には他の経済指標が優先されることもあります。しかし、依然として包括的な指標として中長期の経済分析において重要な役割を果たしています。GDPの結果が市場の予想に反する場合、逆に相場が動くこともあるため、市場心理を見極めることが重要です。
特に個人消費支出や民間設備投資、政府支出、純輸出といったGDPの構成要素は米国の実体経済を深く表しており、中長期的な経済分析には有用です。
引き続きGDPをはじめ経済指標の発表日には、当ブログやX(Twitter)で分析や予測を投稿していきますので、拡散、いいね、フォロー等があれば嬉しいです。
皆様の利益を願っています。
DAKURA